**麻雀蒐穂録**

マージャンとはギャンブルとはゲームとは…そしてプロとは…!

遠い昔、歌舞伎町のけもの道を徘徊していた 畏怖るべきアウトロー達との交遊を
途切れた記憶の糸を紡ぎながら回顧録まがいに書き起こそうと思います。

 ※実体験以外に風聞や創作も加味するつもりです。フィクションとしてお読み下さい。

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麻雀の正解(6)前編

―オープン麻雀―

二十歳前後のある時期――
変わったルールの麻雀に興じていたことがあった。

当事の私は小田急線の参宮橋駅に近い友人のアパートで、
友達の輪のような仲間内の麻雀に明け暮れていた。

まだ、麻雀牌が質草になるほど貴重品だったころで、
その友人の部屋はそこに麻雀牌があるというだけで、
暇はあるがカネが無いといった学生たちが出入りする、
雀狂仲間の溜まり場になっていたのだ。

多いときには20人前後の仲間が出入りしていた。
ほとんどがノンポリで学生運動とは無縁のはずだったが、
なぜか(革)と印された白いヘルメットが一個だけ、
誰のものか判らないまま、
狭い玄関の隅に置き去りにされていた記憶がある。

夏の盛りにクーラーも無い部屋で全員がパンツ一丁になり、
流れる汗を拭きながらひたすら牌を掻きまぜていた。

仲間内では一応のレートを決めてはいたが、
みんなカネが無いから麻雀をするわけで、
勝ち負けの清算は集計表を兼ねた専用の大学ノートに、
日付と貸借の金額を記帳して済ますことが多かった。

メンバーの誰かにバイト料や仕送りなどの現金が入れば、
麻雀の清算よりも、まずその場の食料の調達に充てていた。
それから仲間内の貧民救済と清算に充てられるのが常だった。
何人かで同じバイトに就いて稼いでいたこともあった。
全員の小銭を寄せ集めてインスタント・ラーメンを買ってきては、
ひとつの鍋で回し食いをするのも当り前の習慣になっていた。

金が無くても、いつも陽気に笑いながら牌を叩いていた。
明日の生計の当てがなくても、何の不安もなかった。

戻れるものなら、あの頃に戻りたいと思う。
人生をやり直すためではない。
ただあの日々をもう一度…それだけのためだ。

そんな居心地の良い部屋でも、面子が揃わないこともある。
そんなときは人数に合わせていろいろな遊びを実践していた。
カードや花札で遊んだような記憶もあるが
やはり牌を使って遊ぶことが多かった。
サンマはもちろん、二人麻雀やトッパン(10,5)、牌ホンビキ、
二角取り、独り麻雀といったところだ。

相手がいない独り麻雀は遊びとしてはつまらない。
ひとりで山を積み四人分の手作りを試みるだけのことで、
独り芝居のままごと遊びのようなものだ。
捨て牌相と手牌の構成を考える一助にはなったと思うが、
それも基本的な牌理を理解する程度に過ぎなかった。
手積で全部の山を積む作業も面倒で、すぐに飽きてしまう。
だから独り麻雀は退屈な時間の暇つぶしでしかなかったのだ。

その下らない遊びの延長線上で、
「一局の正解」を意識するという発想が生まれたといえる。

きっかけは、四人リーチを流局なしのルールにしていたのと、
そのころ巷の雀荘で流行りだしていた、自摸宣言ルール、
いわゆるオープンリーチという新ルールの採用だった。

知っての通りオープンリーチは手牌の一部を公開して、
待ちを公表し、他家からの振込みを拒否するリーチだ。
私達はそのルールを取り入れてからというもの、
色々と新手のルールを考案して遊ぶようになったのだ。

元より、仲間内だけの面白半分のルールだったが――
まず、オープンリーチは手牌13枚全部を公開することにした。
その後、オープンリーチの後の追っ掛けリーチはすべて
オープンリーチにするという変則ルールが追加された。
その結果、リーチはほとんどオープンリーチになり、
複数で手牌を公開して戦うような局面が多くなった。

三人がオープンした場合、残りの一人も手牌を開いてしまう。

そして変則ルールは次第にエスカレートしていく。
配牌を取り終えた時点でそれぞれの手牌を全部表向きにして
始めから相手の手が見える状態で戦うことにしたのだ。
早い話が独り麻雀の手順を四人の闘牌で進めるようなものだ。
仲間内では「オープン(麻雀)」とよんでいた。
「オープンでやろう」といった具合だ。

リーチは当然オープンルールで、振込みは役満扱いになるが、
リーチ者の振込みは通常の支払いで済むことにしていた。

相手の手牌が見えれば仕掛けも押し引きも楽にできる。
単調なゲームになると思うだろうが…そうはいかない。

自分の手の内もガラス張りになっているのだ。
通常は出易いような牌でも止められて鳴くこともままならない。
混一色や対々形での早仕掛けは極端に不利になる。

筋の引っ掛けや河模様、地獄待ちの単騎やワンチャンスなどの
嵌め手好手も、手の内がガラス張りでは意味がない。

ダマ聴にしていてもリーチ者以外からの振込みは期待できない。

手作りも和了も自摸への依存度が異常に高い麻雀になるのだ。

そして一摸一打に相手三人の手牌を意識した選択を強いられる。
危険牌の先切り、面子の入れ替え、キー牌の処置など、
相手の牌姿が見えているためかえって難しい判断を迫られる。

この変則麻雀の醍醐味は聴牌直前の攻防、進退の綾にある。

お暇な方は仲間を誘ってこのルールで遊んでみれば良い。
牌の流れを見ながらの遊びは結構面白い。
一摸一打に笑えるような展開が続出するはずだが、
四人で戦うということがどういうことなのかが良く解る。
真剣に打てば麻雀の真髄に触れられる…かも知れない。

オープン麻雀は、全員が打ったわけではない。
四人が揃っていてこのような変則ルールで打ったのは、
それが好きなメンバーが揃ったときだけだった。
あとは、三人しか揃わず面子が足りないがサンマは嫌で、
四人麻雀の手順で打ちたいといった特殊な場合に限って、
このルールで打つことが多かった。

始めの頃は考え過ぎて疲れる麻雀だったが、
慣れるに従って楽な麻雀だとも思えるようになった。
要所を押さえながら、手詰りまで好きなように打てば良いのだ。
イヤでも見える場況によって、
各々の進退が必然的に決まってしまうからだ。

まあ、序盤から手詰りになることもあるわけだが…
進退の答えが解ってしまうと、もうつまらない。
普通の麻雀のオープンリーチでもよくあることだが、
役満の聴牌もオープンリーチの当たり牌を掴んだら、
否応なく降りなければならない。
振り込んだら終わりだから、それがゲームの正解だとしても、
なんとも不快なのだ。振り込みたいと思うことさえある。
勝負としては振り込んだほうがスッきりする。
待ちが見えて振り込みのない麻雀などつまらないのだ。
ゲームとしては味気なく、決して面白いとは思えない。

あるとき、中盤で四人が立て続けにリーチをかける展開となった。
四人リーチは流局無しのガチンコというキメだったので、
全員で、早い者勝ちのめくり勝負になったわけだが、
先は長い、いちいちツモっているのは面倒だから
残りの山を開けて誰の和了りが早いのか見てしまえ!
ということになった。

それから間もなく――
将棋が得意なK大生の○山君が真顔で新ルールを提案した。

「なあ、一度、テンから山を開けて打ってみいへんか?」 

麻雀は下手ではないが、引きが弱い男の要望だった。

それが全開麻雀を試みる切っ掛けになったのだ。


長いので、つづきは後編の―全開麻雀―で、

明日の午後9時にUPのタイマーセットにしておきます。

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