**麻雀蒐穂録**

マージャンとはギャンブルとはゲームとは…そしてプロとは…!

遠い昔、歌舞伎町のけもの道を徘徊していた 畏怖るべきアウトロー達との交遊を
途切れた記憶の糸を紡ぎながら回顧録まがいに書き起こそうと思います。

 ※実体験以外に風聞や創作も加味するつもりです。フィクションとしてお読み下さい。

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メンバー百景(1-L)

工藤君…と聞いて、
私はオーナーに代走を頼んでいる卓に目を向けた。
私が座っていた席はレジを背にする位置なので、
こちらからは麻雀を打っている人間の顔は見えない。
私の代走をしているオーナーは広い背中を前後に揺らしながら、
脇見もせずにひたすらゲームに集中しているようだ。
その対面の窓際の席に、喋りながら打っている猿顔の客がいた。
工藤君が辞める原因になった喧嘩の相手――河内だ。
その日、私は昼過ぎからずっと河内と同卓していたのだ。

「工藤君か…。今、何をしているんだ?」

私も吉田に合わせて声を潜めて訊ねた。

「プーですよ。ずっと高田馬場あたりで遊んでいたようです」

「高田馬場…?」

「ヤツのアパート… 早稲田通りを入ったとこだから…」

「そうか、そう言えば前は馬場の雀荘にいたって言ってたな」

「古巣を根城にして遊んでいたらしいんですけど…」

「その古巣じゃ働けないのか?」

「メンバーは揃ってるからって、断わられたそうです」

この店でも工藤君が辞めてから一週間もしない内に、
新しいメンバーを補充していた。
新しいといってもずぶの素人ではない。
以前に別の雀荘で吉田の下について働いていたメンバーで、
私も少なからず面識のある男だった。
歌舞伎町を離れていた彼を吉田が呼び戻したのだ。
だから、今のところ、この店の人員は足りている。
工藤君一人ぐらいなら雇えないことはないだろうが、
彼の場合、やはり辞め方に問題があるだろう。

河内は事件直後の一時期はよその雀荘に通っていたが、
最近は又、三日にあげず顔を見せるようになっていた。
吉田は客の折々のマナー違反に対しては頻繁に注意を促すが、
余程の事が無い限りレッドカードを切ることはない。
この一件にしても喧嘩両成敗のようなかたちで収めていた。
河内は自分にも非があったことを認めて水に流したらしい。
マナーを守ると約束したというが、まあ、性格は直らない。
現に今も対面で「ぼやき麻雀」を打ち続けているのだ。


そのぼやきが突然喜色の発声に変わった。

「リーチ!リーチ!親リー!」

河内がリーチをかけてきた。

「マスターは代走だろぅ。 振るなよぉッ…」

すかさずオーナーに揺さぶりをかけている。

オーナーが慌てて振り返った。
私に気付くと、

「天羽さん! 早く戻って…。親がリーチだってよぉ…」

手招きしながら席を立とうとするオーナーを、
私はレジの前にたったまま制止した。

「いいからやってよ。任せるから…」

「任せるったって…」

「好きに打っていいから…」

「いや、来て見てよ…。この手…」

すると下家の客が、

「任せるって言ってんだから良いじゃん」

戸惑うオーナーを引き止めて続投を促した。

渋々腰を下ろしたオーナーが、下家に急かされながら、
手番の牌をツモった。
そして首を傾げて固まってしまった。
どうやら一発で危険な不用牌を掴んでしまったようだ。

「うーん、いい手なんだが、親リーじゃなぁ…」

首を回してこちらを窺い、

「天羽さん…。勿体無いけど、降りちゃうよ…」

私は任せたのだから文句は言わない。好きにすれば良いのだ。
オーナーの視線をシッ!シッ!と手で追い払うまねをしながら、
わざとらしくそっぽを向いた。
その時――。
チラッと視界に入った河内の表情に違和感を覚えた。
なんだ…? 改めて見直す。表情だけではない――。
気付いた―。会話だ。河内の口の動きが止まっているのだ…。
常に軽口を吐いているはずの男が、なぜか無口になっている。
なぜ…?
私が弾き出した答えはひとつだった…。

――喰えない野郎だ…と溜息が出た。

つづく…

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H.N: 天羽 礼
年齢:知ってどうする?
職業:まとも、だから退屈で
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近況:迎えをまっている。
   出来れば天国から
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